ごきげんよう、現代美術家の岡田裕子です。
今日から、よいこのみなさんにびじゅつのお話をしようとおもいます。
現代美術ってマイナーでしょ? だからここでは自主的に伝導師になろうかなって…。
ビギナーさんウェルカム。通の方々はご笑覧くださいな。
こんなWebマガジンだし、第1回目は「自画撮り」のお話しするわね。
このコラムのトップ画像も自画撮りよ、これは「熟女ナイト」ってトークイベントに出た時のなの。
映画「極道の妻たち」(※注1)のかたせ梨乃(※注2)モドキを気取ってみたの。
他の登壇者も岩下志麻(※注3)や欧陽菲菲(※注4)にコスプレしていたわ。
悪ノリした熟女の毒気にガクブルし、会場に入れなかったって男が続出だった…。
男って、弱い生き物よね。
ところで美術の言葉では「自画撮り」は、「セルフポートレート」っていうのよ。
映画の人物になりきるセルフポートレートといえば、
世界的に超絶有名な、シンディ・シャーマン(※注5)さんってアーティストがおります。
この人の写真は、自画撮りと言えども世界トップ。
なんとオークションでは、1枚、数億、よ。
で、でも、お金の話よりコンセプトが大事なのが現代美術ですから、興味が出たらシンディ、ググってみてね。
私もセルフポートレート、たまに撮りますのよ。「美しく自画撮りする」とは全く違うものばかりなんだけど。
思い出深いのは妊婦の時、出産前ね。
ある真夜中「ああ、こ、これは陣痛だーっ、病院へーっ」てなったの。でも突如、
「あ…そうだ、この腹、産んで縮む前に写真を…」
と思いついて、陣痛の痛みで震える手で三脚たてて、たった一人で個室に籠ってセミヌード撮ってたの。
一見爆笑モノの光景だけど、本人必死よ、因果な商売だわ…。
で、三年後、男性の写真の腹部にフォトショ移植して「俺の産んだ子」って個展で展示したわ。
それは“もし男性が妊娠したらどうなるか”って作品だった。三年仕込み熟成味噌みたいに寝かせて、
やっと作品になったようなセルフポートレートだったわね。
思えば、世の中の自画撮りっていうのも、一人だけで孤独に撮ってるっていうのが面白いわよね。
シンディ・シャーマンのスタジオ撮影では、もの凄く凝ったセットと扮装で、
独り籠って何びとたりとも寄せつけずセルフポートレートの撮影してた、っていう伝説を聞いた事があるわ。
ある意味、スーパー自画撮りなのよね。
私たちの普遍的な自画撮りっていうのも、
部屋とか洗面所とかでひとりぼっちで自分にカメラ向けてニッコリして、
かなりこっぱずかしいシチュエーションですけどね。
それになんだか相当孤独にもみえるわね。でもやらずにはいられない、
やればやるほどやめられない、いま、ここに居る自分を記録するために…。
…これって、ちょっとアートなのかもしれないわね。
自画撮り大好きなアナタ、これから「自画撮り」を
「セルフポートレート」って言い換えて撮ってみたら?
そしたら、美術の窓が、ひらいちゃうかも。
(続く)
[プロフィール]岡田裕子
多様な表現形態で社会へのメッセージ性の高い作品を制作。2007「Global Feminisms」Brooklyn Museum、2009「NO MAN’S LAND」旧フランス大使館跡など、国内外の展覧会多数。現・多摩美術大学美術科演劇舞踊非常勤講師。2010年より個人活動と平行して、オルタナティブ人形劇団「劇団★死期」を主宰。夫で美術家の会田誠を顧問とし、多様で実験的なパフォーマンスをプロデュースする。2015年は、東京都現代美術館「ここはだれの場所?」(7〜10月)に”会田家”として参加、また韓国国立現代美術館国際アーティストフェローシッププログラムにて韓国滞在制作・展覧会などの活動を予定。また、この夏、劇団★死期初の小説「ゲンダイチコースケの殺人ミュージアム」を刊行予定。
ゲッカビジン!創刊イベント開催決定
【開催日時】2015年6月20日(土)
【イベント内容】
●個人フォトセッション7部構成(各50分間)
●集団フォトセッション&オフ会(150分間)
(※注1)『極道の妻(おんな)たち』
1986年~現在まで、東映・東映ビデオにてシリーズ製作されている日本映画。作家・家田荘子のルポルタージュを原作にした、極道世界で生きる女性視点で物語が描かれているのが特徴。
(※注2)かたせ梨乃(かたせりの)
1957年5月8日生まれ。『極道の妻たち』初期シリーズの準主役女優。セクシーな役割を一手に引き受け、それが売りの一つとなり、同作品のヒットに貢献した。
(※注3)岩下志麻乃(いわしたしま)
1941年1月3日生まれ。『極道の妻たち』初期シリーズの主役女優。品行方正な佇まいから一転して、男勝りで啖呵を切る芝居は当時の女性たちの憧れとなり、男性たちにとってもギャップ萌えだった。
(※注4)欧陽菲菲(オウヤン フイフイ)
1949年9月10日生まれ。台湾出身のポピュラー歌手。名前のインパクトとは裏腹に、日本では『ラブ・イズ・オーヴァー(81年)』等、カラオケの定番となるヒット曲を飛ばす。地元台湾でも人気歌手。
(※注5)シンディ・シャーマン
1954年1月19日生まれ。アメリカ合衆国の写真家・映画監督。コスチュームを着けた自分を被写体としたセルフ・ポートレイト作品で有名。